No.03AIと人間。”シンギュラリティ”と人の幸福

2019年は何の年? 平成の終わる年、東京オリンピック・パラリンピック前年の年、イギリスがヨーロッパ連合(EU)から抜け出る年、日本の消費税が上がる年……。新聞やテレビが取り上げた中で、ボクが気になったのは、人工知能(AI)の特集だった。今年はますます人工知能が進化するという。キーワードは「シンギュラリティ」。いったいどんな意味だろう。

シンギュラリティとは何だろう

シンギュラリティは、技術的特異点という意味の英語。技術的特異点と言われても、やっぱり分からない。

アメリカの技術者カーツワイルさんが2005年に出した本でシンギュラリティという言葉を使った。「コンピューターや人工知能をはじめとした科学技術が人類の能力を追い越す時」という意味だ。カーツワイルさんは、そのシンギュラリティがずばり2045年にやってくると予言した。10年以上たった最近になって世界中に広まったのは、現実がカーツワイルさんの予言通りに進んでいるからだ。

キミは、「2045年を待たなくても、すでにコンピューターは人間を上回っている」と思うだろう。ノート型のパソコンだって人間の計算能力を遥かに上回っている。またどんな物知りの人だって、インターネットの検索で得られる知識の量にはかなわない。それはその通り。

しかし、カーツワイルさんの言うシンギュラリティは、コンピューターが1人の人間の計算能力や知識量を上回ることではない。人類すべての脳の合計を超えるとともに、人工知能が人間の手を借りずに自分自身でより優れた人工知能を作り出す能力を持つ瞬間のことだ。2045年を境目に、人類は人工知能に追い抜かれ、二度と追いつくことはない。日本の専門家たちも、「2045年に訪れることはないだろうが、より長く考えると人間を超える人工知能が実現することは確実」と認めている。(インテリジェント化が加速するICTの未来像に関する研究会報告書2015)

2045年の向こう側

2045年より先の予言もすごい。目に見えないほど小さなロボット(ナノテクノロジーという)が人間の体の中から病気を治療する。脳とコンピューターがつながる。さらにすごいのは、脳から記憶や意識をコンピューターに移し替えて、人間の心と体が別々になる。人間の記憶と意識は永遠に生き続ける。まるでマンガやゲームやSF映画の世界だ。

これまでの科学技術の進歩は人間社会を豊かにした。同時に、大量破壊兵器を作りだし戦争の死者を増やした。だから、シンギュラリティは、人間にとって幸福なのだろうかと心配する声もある。

昨年亡くなった天才物理学者ホーキング博士は「完全な人工知能を開発できたら、それは人類の終わりを意味するかもしれない」と話した。ノーベル医学生理学賞を受賞した利根川進博士は「ロボットが人間と戦うような事態が起き、どう規制するかも問題になるだろう」と心配する。本当にまるでマンガやゲームやSF映画の世界だ。

来年からプログラミングを学ぶキミが今、考えておくこと

シンギュラリティと人間の幸福の問題。ボクは、キミが考える問題だと思っている。

来年、つまり2020年の4月から、キミの小学校でも「プログラミング」の授業が始まる。プログラミングとは、コンピューターが使う「言葉」であり「考え方」だ。

なぜ、小学校からプログラミングを学ぶことになるのだろう。国は、①プログラミングの考え方を身につける②コンピューターを上手に使って身近な問題を解決したり、よりよい社会を築いたりできるようにするためと説明している。

外国の人と友だちになったり、外国の文化を理解するために外国語を勉強するように、コンピューターや人工知能を理解するためにプログラミングを学ぶわけだ。そして、よりよい社会を築くことは、シンギュラリティの後も、人間の幸福が続く方法を考えることほかならない。

2045年まで26年。小学校でプログラミングを学ぶ第一世代のキミは、何歳になっているのだろう。

キミへの質問

①たとえば、自動運転の車同士の交通事故。責任はだれにある? 乗っている人、車会社、プログラムを作った人……???

②人間とロボットとの違いはどこだろう。2013年2月、ある有名中学が入試問題で、「ドラえもんが生物として認められない理由」を考えさせて話題になった。発展させて考えてみよう。将来、人間の記憶と意識を移し替えたコンピューターができあがったら、それは人間なの、機械なの。

③人工知能が進化した果てに、人間に残された仕事はどんな仕事だろうか。働かなくても生きていけるとしたら、キミは働く、働かない?

④将来、人工知能が人間社会の一員となるだろうと学者たちの意見は一致している。人工知能と人間が作る社会とは、どんな社会だろうか。人工知能は人間でないからといって、奴隷のように扱っていいだろうか。逆に人間が奴隷になる心配はないか。

もっと考えてみよう!

ここからは科学好きなキミと考えよう。

カーツワイルさんによると、科学技術の進化は勢いを増して、やがて地球を飛び出し、太陽系をコントロールし、銀河を超えて宇宙全体に知能が行き渡ると予言を続けている。

それは100年後、1000年後、1万年後かもしれない。

1万年というと遠い未来に思うだろう。しかし宇宙の年齢は約138億年。1万年なんて、宇宙の歴史からみると138万分の1に過ぎない。2週間のうちの1秒ぐらいの計算だ。

一方、宇宙には無数の銀河、恒星系があり、惑星がある。地球は無数のうちの一つの天の川銀河の、無数の中の一つ太陽系の、8つの惑星の一つに過ぎない。その無数の中の一つの地球が宇宙を支配するまでに進化するというのが、カーツワイルさんの筋書きだ。

考えてみよう。宇宙を支配するのはなぜ地球だけなのか。今から1万年後とはいえ宇宙からみれば、瞬きの差にもならない。地球が一番乗りなのはおかしくないか。広い宇宙の別の高度な文明を持つ宇宙人が一足早く宇宙に進出して、この地球を訪れているほうが自然ではないか。

ノーベル物理学賞をとったイタリアのフェルミ博士も仲間と昼ご飯を食べながらそう気づいた。1950年の話だ。「(宇宙人の)みんなはどこにいるんだ」。なぜ私たちは高度な文明を持つ宇宙人と出会わないのか……有名なフェルミのパラドックス(逆説)だ。

ホーキング博士は、過去に戻るタイムマシンが開発できない理由を、数式や物理の理論を使わずに一言で説明した。「今ここに未来から来た人がいないからです」。さてキミはフェルミ博士の質問にどう答える。

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この世の中には、たくさんの意見を持つ人が、それぞれの生き方で生活している。相手の話を良く聞いて、相手を認めて、そして自分の意見も伝えて、変化しあって、お互いが成長する。それがよりよい社会を作ることにつながる。

さまざまな意見に出合うなら、新聞が手っ取り早い。もちろん、このページのようにインターネットにも、さまざまな意見が載っているコーナーもある。これから、このコーナーで、さまざまな意見に触れて、自分の頭で考えていこう。

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(西村隆JDLA Deep Learning for GENERAL 2019#1)

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