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がんステージ4からの眺め


登壇者

2019年02月23日

三輪 晴美 氏

毎日新聞 記者

1964年大阪府生まれ。1989年、毎日新聞社に入社し、主に出版局で、雑誌や単行本の編集に携わる。2018年11月、骨転移を伴うステージ4の乳がんが見つかり、休職。1年後に復帰し、勤務のかたわら治療を続ける。2014年4月から生活報道部記者として、がんの取材などに携わる。2018年4月に大阪本社学芸部に異動。現在は、主に美術や文芸の取材をしながら、「がんステージ4からの眺め」というシリーズ記事も書く。

講演5

腰痛と思い、受診が遅れた。見つかったのは骨転移の乳がん。

講演1

私、スカーフでちょっと格好をつけてますが、実は抗がん剤の影響で脱毛しています。足も少しヨロヨロ。鼻毛もないため気づかないうちに鼻水が出たり、お見苦しい点があるかと思いますが、ご容赦ください。

がんは「100人100様」。部位や病気の進み方、薬の副作用によっても症状が違います。今日はそのなかの私の一体験としてお聞きください。

病気が分かったのは2008年。腰痛がなかなか治らないと言っているうちに、立てず歩けずとなり、44歳でしたから周囲も「歳だからな」という感じ。私も同じ気持ちで受診が遅れました。

やがて胸に何かあると気づき、いよいよ「おかしいぞ」と医院に行きますと総合病院で検査となり、「乳がんの骨転移」と言われました。

 東京で一人暮らしをしていた私は、親が暮らす神戸で療養することになりました。そちらでさらに詳しい検査をしますと、胸に8cm以上の腫瘍。これがリンパ節に転移し、骨も画像上で真っ黒でした。

やがてしゃべると咳が出たりして、胸膜にも転移の疑いがありました。もう全身にがん細胞がまわっている状態ですので手術しても意味がなく、抗がん剤を使う化学治療を受けることになりました。

同じ乳がんでもタイプは様々です。私の場合はとても進行が早く転移しやすいタイプ。ひと昔前だったら、もうこの世にはいない状況です。ただ乳がんは薬が効きやすいそうで、また患者さんが多いため薬も進化し、その当時、たまたま私に合う良い薬が出たおかげで劇的に良くなっていきました。

 

分子標的治療薬のおかげで、富士山に登れるまでに回復。

講演2

その薬とは「分子標的治療薬」。覚えておいてください。抗がん剤の一種ですが健康な細胞は攻撃せず、がん細胞にだけ反応する非常に効率がいい薬です。このおかげで2カ月程で杖を使って歩けるようになり、3カ月程で杖もいらなくなり、日増しに良くなりました。

1年半程すると画像上では胸やリンパ節から腫瘍が消えました。しぶとくてなかなか消えてくれない骨への転移は、生命を脅かすものではなく普通に生活でき、富士山に登れるまでに回復しました。

以後5、6年は、がんが暴れることもなく、私は東京に戻りつつ、主治医との信頼関係を考えて転院せず遠距離通院しました。毎日新聞社は配慮してくれ、恵まれた環境で仕事と治療を両立できました。

1年半後には海外旅行にも出掛けました。「もう治ったんでしょ」と周囲にも思われていましたが、何しろステージ4。がんの種類によっては治癒もあり得ますが、臓器などの固形のがんは、基本は「治癒はない」と言われています。私の場合も、ずっと骨にがんがあるまま。つまりがんと共存しているんです。

 

がんが「再燃」、骨折、手術、落ち込む……

その状況が変わったのが2年前。「あれ?足がおかしい」と医者に相談しても理由が分からないまま腰が痛くなり、検査をすると座骨が折れていました。骨のがんが広がったんです。

検査結果は「がんが再燃」。「再発」は手術で腫瘍を取った人に再びがんが出る場合の言葉で、私はがんが潜んでる状況だから「再燃」です。

さらに1年後には大腿骨を骨折。本当に骨がポキンと折れちゃったんです。地下鉄に乗ろうと足を振り上げた瞬間に「イタタタ」。「非定型骨折」と言われました。この骨折は腫瘍のせいではないんです。がんが骨に転移すると骨折しやすくなるため、骨を丈夫にする薬を使いますが、そのせいで骨のある部分が逆に弱くなる人が、まれにいるらしい。骨粗鬆症の方も同じ薬を使うことがあり、やはりまれに起きるそうです。

骨折は左足。右足も折れるかもしれないと、両足に手術をしてプレートを入れました、それが1年前。初めての手術でしたし、両足ですから精神的にも辛い。そして「生きていたら何があるか分からない」と恐怖で落ち込みました。

今は順調に骨ができ、夏には普通に歩けるようになりました。旅行もしましたが、この2カ月程また調子が悪くなりまして、昨日ちょうど整形外科でMRIを撮ったら、10年程前に背骨、首の骨が圧迫骨折していたらしい跡があり、それが今頃悪い影響を与えているんじゃないか、と。

もしそれが原因であれば、また手術だそうです。再び落ち込み気味ですが、今日はこうしてここに来させていただけて、良かったなと思っています。

 

がんと共存して暮らす。暗い話ばかりではない。

講演3

さて、そんな状況を皆さんはどう思いますか。骨に転移と聞いたときは、もう死んじゃうのかなと思いましたが、骨は臓器など生命を維持する器官ではないので命に影響はないと言われています。

また、骨は転移しやすい部分らしく、実は転移していても他のがんの進行が早い人は、骨転移が見つかる前に亡くなってしまう場合が多いそうです。医療や薬の進歩でステージ4でも長く生きる方が増えた分、今後は骨転移のケースが増えるかもしれません。今のがん医療界でも、そこに気をつけなければ、と言われているそうです。

私のがんが発覚した頃は、ステージ4の乳がんで10年生きられる人は10%未満でしたが、今はもう少し増えているはずです。つまりがんと共存して暮らす方が増えるわけで、そのなかでどう働くかなど新たな問題も増えていく。記者として、その辺りをしっかり取材していかなければと思っています。

がんになって10年経ちますが、暗い話ばかりではありません。がん患者の方がよく言うのは「今まで会えなかった方と会えたり、いろいろな経験ができたりして、逆に世界が広がった」。些細なことの積み重ねに「幸せ」を感じることもあります。もちろん落ち込んだり悩み続けたりする方もいますし、皆が同じ気持ちではありませんが、がんになったからといって不幸なだけではないと思います。

もちろん、自分ががんであるということを言いたくない方もいらっしゃいますし、人それぞれです。私は復帰後に早速闘病記を書きました。全国に名前と写真をさらして(笑)。でも病気を隠したい人もいますから、「みんなもっと明るく」とは言えませんが、今は「がんがあっても、自分らしく生きていければ」という方向に世の中が向かっているのかな、と思います。

 

医師との信頼関係が大事。標準外の治療に、要注意。

取材を通じて思うのは、がんに関わると一番重要なのが「医師との信頼関係」ということ。

病院

医師は一生懸命ですし「人の命を助けたい」と医者になった方がほとんどだと思うのですが、やはり忙しすぎる。医療もすごく専門化し、一人の患者さんとじっくり向き合う時間を確保しにくい状況です。

患者さんは、その医師に頼るしかないけれど、医師からしたら数100人のなかの一人。そんな意味のことを言われたという患者さんの投書もありました。相性もありますので一概に医師だけが悪いとは言えませんが、医師だからといって人格も技術も完璧という人はいません。

それだけに医師との信頼関係は重要です。がんは治療法を選んだり相談事や意思決定をする場面が多く、医師と上手にコミュニケーションをとれないと状況が難しくなる。結果孤立し、あまり良いとされていない治療法に流れてしまう人もいます。

普通、病院であれば標準治療が施されるのが一般的です。標準治療というのは「標準の治療」ではなく、今の時点で科学的にいちばん効果があるとされている治療です。そこから外れた治療で「苦しい抗がん剤なんか受けなくていいですよ」とか、「これで実は治るんですよ」という甘い罠がたくさんあるんです。しっかり標準治療をしていれば、この人はこんな症状にならなかったというケースも少なくありません。これは大きな問題です。

アメリカには、医師と患者のコミュニケーションにより、何でも共同で決めていく「インフォームドコンセント」という概念があります。日本では「伝えること」がインフォームドコンセントとされており、実はその先が重要だということが、まだまだ理解されていない状況のようです。

「セカンドオピニオン」もまた、医者が気を悪くするのではないかと、日本では遠慮しがちですが、もうそういう時代ではないと言われています。セカンドオピニオンを希望すれば、どうぞと送り出してくれる医師の方が、そもそも信頼できるのではないでしょうか。

 

先進医療は? 食事療法は? 免疫療法は?

講演4

よく見るがん保険の宣伝で「先進医療も受けられます」とありますが、先進医療とは厚労省が一応安全性を認めているけれど、科学的にはまだ効果が検証できてない実験的な治療です。安全性は認められていますが、費用は高額です。

誤解されがちだと思いますが、何がなんでも先進医療を受けたほうが良いというわけではないんです。まずは標準治療をし、もし可能性を感じるなら主治医に相談し、医師も可能性を感じた上で受けるのが先進医療です。とりあえず「最先端ではない」ことだけはご記憶いただければと思います。

〇〇を食べれば治ります、という話も、いろいろ調べたり取材したりした結果で言えば、それで治ることはほぼありません。抗がん剤がつらいから、西洋医学は良くないからと、そちらに流れるのは危険だと思います。

もし、たとえば玄米や菜食とか、人参ジュースなどの食事療法を希望するなら、主治医に相談してください、というのが私に言えることです。私も玄米にして肉食を減らしたりしましたが、食いしん坊だから早々にギブアップ(笑)。ただ食事療法で体を悪くして元の西洋医学の主治医に泣きついた、という話をよく聞きます。

いずれにしろ、そこに凝り固まらないほうがいいということを、お伝えしたいと思います。世の中にいろいろある「これが良い」「あれが良い」という話も治療の効果が下がる場合もありますので、注意してください。今話題の免疫療法もいろいろな種類があり、誰にでも効くわけではありません。副作用もあります。それにも注意が必要です。

保険がきかない治療は効果がきっちり証明されているわけではない、ということです。すべてを否定はしませんが、たとえば本当に終末期でお金も底を突いているのに、高額な保険外治療に「最後の賭け」とお金をかけるのは考えものだなと思います。また、そうした治療は最後まで面倒を見てくれません。症状が悪化したときに元の病院に帰されることもあり、甘い話にはご用心と、頭に入れておいてください。

 

気持ちは揺れる。
でも誰だって何かを抱えて生きている。

マンモグラフィー

でも、私もそうですけど、やはり治したいですよね。私の場合、最初の抗がん剤がよく効いたので、薬と相性がいいんだと思い込んでいました。そして6、7年、がんがおとなしかったので「もう大丈夫」と思う自分もいました。

ところが、さっきお話しした再燃のような事態に直面すると、このまま悪くなるばかりではないかと、樹木希林さんの言葉ではありませんが「全身がん」みたいになるのかと、これはなかなか恐怖でした(笑)。最初にがんになったときより、いろいろと考え悩んだかもしれません。

それで薬を変えて、副作用はあるけれど一応抑えることができ、気持ちを持ち直すことができました。

そんなふうに気持ちは揺れますし、もちろん病気はがんだけでなく、皆さんもいろいろな身体の悩みをお持ちでしょう。それぞれが、何かを抱えながら人生を歩んでいる。私の場合は、それががんだった、ということです。

先日、堀ちえみさんが言った「子どものために生きようと思った」という言葉が印象的でしたが、気持ちを強く持つ秘訣は、正直、分かりません。

日々仕事をして、少し好きなものを食べて。もうささやかなことかもしれません。私はがんになったから、自分の内を少し整理できたかな?と思いながら、今は暮らしています。

 

これからも、がん患者の当事者として発信を。

今、「ステージ4からの眺め」というタイトルで毎日新聞に不定期で記事を書いていますが、今度記事にする予定の話をひとつ。

ステージが一番進んだ膵臓がんの患者さんが、ある治療で寛解された例があります。何かを食べたとか、奇跡が起きたという話ではありません。医師が目の前の患者さんを治したいと思っていろいろな研究をし、標準治療に工夫を加えた治療が奏功した、という例です。

この話はまだ科学的に証明されたわけではないので、安易に勧められるわけではありません。でも、世界中の医師や研究者が、がんを治そうと力を注ぎ、少しずつでも治療は進歩しています。

私は定年まで5、6年。今後も当事者として自分なりに発信していければいいかなと思っています。もし私の名前を見かけたら「まだ生きてる」と思っていただいて、記事を読んでいただけると嬉しいと思います。どうもありがとうございました。


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