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北京オリンピック閉幕 波乱の1年を振り返る


2022年3月5日

小坂大  氏

毎日新聞東京本社コンテンツ編成センター次長

東京都出身。1991年毎日新聞社入社、山形支局を振り出しに、99年から運動部。2009年から5年間、ニューヨーク特派員として、米大リーグ、国際オリンピック委員会(IOC)などを担当。帰国後、運動部副部長(デスク)、運動部長を務めました。五輪は夏冬で5大会を現地取材。21年春から現職で毎日新聞デジタルの編成責任者です。東京五輪・パラリンピックでは報道本部長も務めました。

 

揺らぐ、平和の祭典

きのう北京冬季パラリンピックが開幕しました。国際パラリンピック委員会のパーソンズ会長が開会式で、今回のパラリンピックの置かれている状況の苦しさを訴え、最後にピースした両手を挙げた姿は、非常にインパクトがありましたよね。

オリンピック休戦という言葉を度々、耳にされると思いますが、これはかつて、オリンピックの発祥地、ギリシャで、オリンピックの開催期間やその前後、選手や観客の往来を安心安全にするために行われていたと言われ、1994年のリレハンメルオリンピックから、再び導入されています。

休戦期間は国連総会の決議で、オリンピックの開幕7日前から、パラリンピックの閉幕7日後までとされ、今回も、昨年の12月の国連総会で、中国やロシアなど173か国が共同提案国となり、休戦を決めていました。しかし現実は、ロシアがウクライナに侵攻し、パラリンピックが戦時下での開催となりました。これで平和の祭典と言えるのでしょうか。

東京オリンピック・パラリンピックのときは、日本も共同提案国に含まれていました。しかし、実は今回、この173か国のなかに、アメリカ、日本、オーストラリア、インドは含まれていません。中国の人権問題を懸念して、不参加を表明したアメリカに同調し、中国やロシアに対抗するためです。このように、政治的な駆け引きとしてオリンピック休戦が使われたことも、平和の祭典という趣旨からずれています。また、ロシアは共同提案国でありながら、自ら破って侵攻を始めました。今大会では、オリンピック精神が、本当に大きく揺らぎました。

 

政治的判断により分断

 パーソンズ会長は、始め、ロシアとその同盟国、ベラルーシの選手について、パラリンピックへの出場を、1人の選手としては認めると言っていました。しかし一転、開幕前日に、ロシアとベラルーシの選手の参加を認めないという判断を下しました。他国からの強い要請や、彼らが参加するなら自分たちは出ないと、ボイコットをちらつかせる行為などがあったため、最終的に、認めないことにしたのです。

選手は悪くないのだから、出場させてあげようという声もありましたが、オリンピック休戦に反する行為をした国やその同盟国には、断固たる措置を取るべきという考え方が優先されました。本来、パラリンピックという崇高な大会は、人々を1つに結びつけるもののはずですが、政治的な判断がなされ、分断の状況を作ってしまいました。

 

犠牲になった15歳

 ロシアは現在、過去の国ぐるみでの禁止薬物使用を受け、国としては参加できない状態です。そのため選手は、ロシア・オリンピック委員会という名称で参加しています。表彰式で国歌が使えず、国旗の掲揚も国名を表示することもできません。しかし、実態はロシアです。

本来、ドーピング違反があれば、違反した選手や国は出場停止となります。しかしIOCは、ロシアとの関係が強く良好だったため、抜け道を作って、2016年のリオオリンピックから今回まで、国は認めないが、選手は認めるというかたちで、ずっと受け入れ続けてきました。これにより、ロシアのドーピングに対する認識は改善されないままです。その結果、今回、フィギュアスケート、15歳のカミラ・ワリエワ選手が、犠牲となりました。

ワリエワ選手のあだ名は「絶望」。彼女がパーフェクトな演技をすれば、ものすごい高得点を出すため、誰も追いつけないという意味で付いたあだ名です。北京オリンピックで団体戦に出場し、女子選手として初めて4回転ジャンプに成功、金メダル獲得に貢献しました。しかし、試合後、禁止薬物の検出が確認されました。

検出されたのは、トリメタジジンという心臓疾患の治療に使用される禁止薬物と、それを相互に補う作用がある、ハイポキセンとL-カルニチンでした。専門家によれば、この3種類の組み合わせで服用すると、持久力の向上、疲労の軽減、酸素の消費効率を高めるなどの利点があるそうです。

跳躍力もあり、体幹も強い優れた選手ですが、やはり15歳。4分間の演技の間、フルに体を動かしていくには、まだ成長途上です。その彼女が、完ぺきな演技をしたタイミングで、禁止薬物が検出されたのですから、なるほど、薬を使ったのなら可能だよねと、疑惑が広がっていきました。つまり、能力はあるけれど、成長途上で、最後に失速してしまう可能性がある選手に投与すれば、最後まで持続させられるという考えのもと、周囲の大人たちによって、禁止薬物が使用されたと推測できます。

 通常、検査は検体を2つ用意し、1つ目が陽性になった時点で、暫定的な資格停止、2つとも陽性の場合に出場停止となります。しかし今回、スポーツ仲裁裁判所は、彼女が16歳未満の要保護者であり、暫定資格停止処分の規定がないということで、団体戦のあとの、女子シングルにも出場可能という判断を下しました。

ちょっと待ってくださいよと思いますよね。会見でも当然、彼女の出場を認めるのか?という質問が出されました。それに対しIOCは、スポーツ仲裁裁判所の決定に従うと発言しました。本来なら、資格停止と言うべきだったと思いますが、そうはしなかったのです。IOC自ら判断せず、他に判断を委ねたことは、大きな問題の1つと言えるでしょう。

 

本末転倒ではないのか

もう1つ、近年変化してきた、競技の在り方にも問題があると思います。技の難易度がどんどん上がり、女子でも4回転を跳ぶ時代になっていますが、なぜ15歳の少女が難易度の高い技を成功させることができるのでしょう。これには、体の小ささが有利に働いている部分が大きくあります。

もともとの身体能力に加え、成長過程にある若い選手はまだ体が細く、軽いです。ある程度の年齢になると、筋肉や脂肪が付いて体が重くなり、ジャンプには不利になっていきます。つまり、若いがゆえの利点を活かし、ロシアのフィギュア選手は、皆、15、16歳で出てきているのです。難しい技をさせるためには体が軽いほうがいい。年齢が低いほうが体は軽い。しかし、年齢が低いということは心肺能力が未熟です。それを補うために禁止薬物を使うのだとしたら、それは本末転倒ではないでしょうか。

 

放映権料と競技の進む方向

 本来、フィギュアスケートは、美しさ、優雅さなど、芸術性が問われる競技でした。しかし、近年、ジャンプの難易度を求める方向に向かっています。また、夏のオリンピックでも、スケートボードやボルダリングなど、エキサイティングな競技が選ばれています。このような現象がなぜ起きているのかについては、IOCの収入構造から説明することができます。

 1993年から1996年のテレビ放映権料は1,376億円でしたが、2013年から2016年は4,572億円となっており、収入の約7割がテレビ放映権料に頼っています。そのため、テレビで見栄えがいいことが重視され、アクロバティックで、エキサイティングな競技が求められているのです。そしてそれが、競技の発展の要素の1つになっています。

フィギュアスケートは、本来、音も立てずに、糸を引くように滑る美しさが魅力の芸術系のスポーツです。しかしテレビでは、ジャンプでどれだけ回るかばかりが注目されてしまいます。そのため、見栄えがよく、アクロバティックで、さらなる難易度を求める方向へと競技が向かってしまうのです。このようなことは、競技の健全な発展につながるのでしょうか。

実は競技の開催時間も、テレビの放映権料と関係しています。フィギュアスケートは、日本時間の昼間に開催されましたが、あれは、アメリカの夜のゴールデンタイムに放映するためです。選手にとっては、早朝から準備しなければならず、タイミングを合わせるのが難しい時間帯です。しかし、放映権料で一番大きなお金を払っているのはアメリカのテレビ局ですから、選手ではなく、アメリカのテレビ局の都合のいい時間に合わせて、開催時間が決定されているのです。

 

命がけのスポーツ

ここで、平野歩夢選手の言葉に注目してみましょう。平野選手はほかの誰にもできない大技、トリプルコーク1440という技で、くるくると、ハーフパイプの端から6メートルも跳躍しました。この競技は3回演技したうちの、最も高い得点で争いますが、彼は3回目で高得点を取り、逆転優勝しました。

試合後の会見で彼は「選手は命がけです」と言いました。難易度の高い技は危険度も上がりますから、それは彼の本心でしょう。しかし、本音を言えば、スポーツに命をかけてほしくはないですよね。限界に挑むのがスポーツだとしても、命を落とすかもしれないという覚悟が、毎回必要であるべきなのでしょうか。しかし一方、危険な大技に挑戦し、くるくると回転して、滑り降りてくる姿は、とても格好良く、テレビ映えもします。

テレビ映えが上がった要因の1つに、人工雪があります。自然の雪は、空気や水分を多く含んでおり、柔らかいです。しかし、柔らかい分、ボードやスキーを雪に取られ、ハンデが生まれます。それをなくすため、ソチオリンピックからは人工雪オンリーになりました。

人工雪は、実質、コンクリートと同じぐらいの固さまで固まります。夏のオリンピックのスケートボードでは、タイヤとコンクリートで摩擦が起きるため、さほどスピードは出ませんが、人工雪の場合は、もともとスピードが出る上に、ボードの裏にワックスなどを塗り、さらにスピードを出やすくしています。テレビ映えは格段に上がりましたが、失敗したときの危険度も上がりました。

スノーボードやスケートボードが含まれる、Xスポーツと言われる部類のスポーツは、テレビ映えのいい、人気の競技です。でも、これらの競技には、深刻なけががつきもので、脊髄を損傷し下半身まひになってしまうような選手が後を絶ちません。まさに、命がけです。本当に、そこまでしなければならないのでしょうか。

 

冬季オリンピックの持続可能性

テレビに映るゲレンデは、雪が積もり、開催地は降雪量の多い、寒い地域のように見えます。しかし、実際、周りの山は山肌があらわで、周辺の道路に雪はありません。私がソチに行ったときも、覚悟して、がちがちの冬装備で行きましたが、実際、昼間はぽかぽか陽気でした。つまり、人工降雪機をフル回転させ、夜の間に大量の人工雪を降らせているのです。美しい雪の景色は作られているのだと実感しました。平昌と北京は、実際に寒かったそうですが、それでも雪不足は深刻でした。その背景にあるのは、地球温暖化です。

実は、地球温暖化以外にも、開催を希望する地域が減っている理由があります。冬季オリンピックの規模は、夏季オリンピックの約半分ですが、それでも多くの国と地域が参加し、開催地はかなりの費用を負担します。今大会の開催地を決めるときも、始めは、北欧のストックホルムやオスロなども立候補していましたが、住民の反対を受けて、取り下げました。冬季オリンピックの本場にも嫌われてしまっているのです。

もちろん、冬季競技そのものが嫌われているわけではありません。ただ、わずか十何日間の大会のためだけに多額の税金を投入し、競技場や周辺施設を整備することなどが嫌厭されているのです。2030年の大会には、札幌が名乗りを挙げていますが、日本としても、もっとよく考えたほうがいいと思います。近年の冬のオリンピックは、持続可能性にもかなり疑問が出てきているのです。

 

高梨選手の涙

 続いて、スキージャンプ、高梨沙羅選手の涙のわけについて見てみましょう。スキージャンプは、体の表面積で空気抵抗を作り、落下速度を下げて飛距離を競う競技です。この競技はよくルールが変更され、スーツの規定も変わります。ムササビのようにスーツを広げて飛ぶ時代もありましたが、今は、体に密着させ、空気抵抗を減らしたスーツでなくてはいけません。しかし、あまり抵抗をなくし過ぎると、落下速度が上がって危険なため、少し緩みを持たせることになっています。各国とも、規定に合わせた微妙な調整に神経を使い、それもチームの能力の1つとされています。

高梨選手は団体戦の際、そのスーツの規定違反で失格になりました。ジャンプ前の測定では問題ありませんでしたが、飛び終わったあとの抜き打ち検査で、スーツの太もも周りが、規定より2センチ大きいと判定されたのです。とてもいいジャンプをしたのですが、得点は無効になり「みんなの人生を変えてしまった」と涙を流しました。

一般的に選手は、飛ぶ前のトレーニングで負荷をかけて筋肉を膨らませ、その状態でスーツを着用して測定します。今大会では、マイナス20度という非常に寒い環境であったため、膨らませた筋肉が予想以上に早く縮んでしまい、試合後、スーツにゆとりが出てしまったようです。今回、このスーツの規定違反による失格が5人出たのですが、ソチでは1人、平昌ではゼロだったことを考えると、異例の多さであり、審判が公平ではなかったという声も多く聞かれました。

私は、これは新型コロナウイルスの影響で、選手もチームも審判員も、テスト大会の経験が乏しく北京の状況をよく把握しきれていなかったために起きたのではないかと考えています。通常、選手はワールドカップを転戦しながら、オリンピックに照準を合わせていきますが、同様に、審判員も多くの大会を経験しながら、判定のコツをつかんでいきます。今回、そのような適切なプロセスが踏めず、全体的にうまく対応できずに、不幸の連鎖が起きたと考えることもできます。

 

ループから出られない

 今回、東京オリンピックではバブル方式、北京オリンピックではクローズドループと呼ばれる、新型コロナウイルスへの感染防止措置が取られました。選手や大会の関係者、マスコミ関係者も、一旦、大きな枠のなかに入ったら、枠の外とは接点を持つことができず、かなり制限されました。この方策により、感染者数を最小限に抑え込むことできましたが、それ以外の面はどうだったでしょうか。

通常、オリンピックの際には、各国特派員が現地に入り、大会だけではなく、現地の暮らしぶりなども取材して、開催国の状況をリポートします。今回、日本を含む、海外のメディアは、中国の新疆ウイグル自治区の迫害や中国の人権状況、国民の暮らしぶりなどに対する懸念を強く持っており、それらについてもリポートしたいと考えていました。しかし、クローズドループから出ることは許されず、それは叶いませんでした。

それはある意味、中国にとってラッキーなことだったでしょう。海外メディアに対して、閉会式の演出や先進的なホテルの雰囲気など、自分たちが見せたいものだけを見せ、国民の暮らしぶりなど、見せたくないものを見せなくて済んだのです。

 

見ざる、聞かざる、言わざる

当然、IOCのバッハ会長も、中国への懸念について、会見で問われましたが「政治的な中立を保たなければいけない」とだけ述べ、多くは語りませんでした。また、中国のプロテニス選手が国の元高官にセクハラを受けたと告白した騒ぎのときには、大会期間中に中国側がセッティングした、その選手との会食に応じ、中国側の「何も問題はない」というアピールに付き合いました。

ワリエワ選手の問題が発覚した際も、国際スポーツ仲裁裁判所の決めたことと取り合わず、高梨選手らのスーツの問題に関しても、国際競技団体が決めたことと取り合いませんでした。本来、IOCがリーダーシップを持ち、会長が積極的に問題解決に向けて発言するべきと思いますが、今回、バッハ会長は、見ざる、聞かざる、言わざるの状態を貫き、トップとして、ふさわしくない態度を見せました。

なぜ、そんな態度を取ったのかと言えば、オリンピックを支えるスポンサー企業のなかで、中国企業の占める割合が高くなってきているからです。大口スポンサーに対しては、強く言えないということでしょうか。オリンピックはもはや、アスリートファーストではなく、スポンサーファースト、マネーファーストになっていると言えます。

 

毎日、進歩していきたい

 後半は、スポーツの素敵なところもお話しします。今回、フィギュアスケートの羽生結弦選手には、94年ぶりのオリンピック3連覇がかかっていました。しかし、ショートプログラムで、ジャンプの失敗が響いて8位となり、状況は厳しくなりました。そのようななか、彼は、オリンピック2連覇のチャンピオンとして新しい技に挑戦すると決断し、続くフリーで、誰も成功させたことのない4回転半ジャンプに初めて挑戦しました。

結果は4位でしたが、最後まで諦めずに挑戦する姿は、多くのファンの心に響いたことでしょう。試合後「3連覇は消えてしまったけれど、僕にはオリンピック2連覇の王者としてのプライドがある。これからも、明日の自分が胸を張っていられるように過ごしていきたい」と語りました。きのうと同じきょうや明日で満足しがちな世の中で、毎日毎日、進歩していきたいと前を向く姿は、非常に尊敬できる姿勢だと思います。

フリーが終わったときの表情は、とても印象的でした。この写真を見たとき、私はソチオリンピックでの浅田真央さんを思い出しました。彼女もショートプログラムで16位と出遅れましたが、フリーで巻き返し6位に入りました。たとえ、メダルに届かなくても、全力を尽くしたあとの表情は、人を惹きつける美しい光景です。

 

色なんか関係ない

心に残ったシーンの1つに、スピードスケートの女子団体、パシュートの高木姉妹の姿があります。日本は2連覇目前でしたが、最後のカーブでの、姉、菜那選手の転倒が響き、結果は銀メダルでした。そのとき、泣きそうな菜那選手に、真っ先に駆け寄ったのは、妹の美帆選手でした。メダルの色なんか関係ない、今までずっと2人で頑張ってきたよねという感情が伝わる、とてもいいシーンでした。美帆選手は、今大会、日本勢最多、4個のメダルを獲得しましたが、アスリートとして強いだけではなく、ミスした相手や敗者に対して見せた優しい姿は、本当に素敵でした。

また、ノルディック複合団体は、銅メダルを獲得して、28年ぶりに再びメダルに届きました。複合というと、94年のリレハンメルでの、荻原健司さんらの連覇の記憶が鮮やかで、日本は強いというイメージがありますが、実は、その後28年間、メダルはありませんでした。個人として3大会連続のメダルを獲った渡部暁斗選手は「メダルの色は関係ない。とにかく、複合団体として結果を残すことが大事だ」と言っていました。28年前の主力メンバーがコーチとなって、若い選手たちを引っ張り、もう一度メダルに届いた、この復活の物語は、なかなか、ぐっとくるものがありました。

 

実現できた「おもてなし」

私は東京オリンピック・パラリンピック報道本部長を務めておりましたので、少し、そのお話もしてみます。開催前の状況は、コロナの感染者が増え続け、医療は崩壊寸前でした。オリンピックをやるべきなのか、やめるべきなのか、世論が分断に近い状態のまま、開催が決まりました。

そのような状況でしたので、今までのように、金メダル獲得を1面で大きく派手に扱うことは控え、コロナで苦しんでいる方に配慮した報道を心掛けました。実際、1面のトップ記事として扱ったのは、開会式と閉会式、ソフトボールが金メダルを獲ったときの計3回だけです。それほど日本の世論は、アンチオリンピックだったのです。

しかし次第に、選手の活躍に励まされたというような投書が増え、読者の皆さんも、コロナ禍の苦しさを少しでも忘れる瞬間があったのだなとうれしく思いました。また、海外の方々からも、日本の人々は苦しい状況のなかでも、よくしてくれたという、感動、感謝の言葉をたくさんいただきました。それはつまり、8年前の招致の際に約束した「おもてなし」を、実現できたということです。コロナ禍の不自由な環境のなかでも、開催国にふさわしい国だった、という印象を海外の方に多く持ってもらえたことは、本当によかったと思います。

 

祝福の光

 私の心に一番残っているのは、東京パラリンピックの最終日、視覚障害者のマラソンです。金メダルを獲ったのは、2大会連続出場の道下美里選手。この日は朝からずっと天気が悪かったのですが、国立競技場の最後のストレートに道下選手が入ってきた瞬間、彼女の努力を祝福するかのように光が差しました。その光に照らされながら、フィニッシュテープを切る姿は、まさに、8年間準備してきた東京オリンピック・パラリンピックのフィナーレにふさわしいシーンでした。

私は20年ぐらいスポーツの現場にいましたが、あんなに感情を揺さぶられたことはありません。あの瞬間は、ああ、道下選手よかったなという思いと、この大会をなんとかやり遂げたんだなという気持ちが交錯し、目頭が熱くなりました。

人間は1人では生きられません。アスリートは特に、いろいろな人や物に支えられていることを強く感じているでしょう。そこに感謝の気持ちを持つことや、人々が互いに思いやりの気持ちを持つことが、スポーツの祭典を、よりよいものにし、世の中をもっともっとよくしていくのだろうと思います。

 

質疑応答

女性A 「東京オリンピックと北京オリンピックでは、場の雰囲気に違いがありましたか?

小坂氏 「IOCの基準に則って運営され、どちらも閉ざされた枠のなかでやりましたが、大きな違いは感じませんでした。中国のボランティアの方々も、とても親切でした。国の政治体制や状況には、違いや問題もありますが、実際に接する国民の方々は、どこの国もそんなに違わないのかなと思います。それが国そのものの姿と同じではないというところが、政治の難しさであり、残念なところです。」

 


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