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No.04「データの活用」にだまされるな。中学から小学校に降りてきた統計学

 ターくんの小学校は毎年、生徒のおこづかいについてアンケート調査をしている。ターくんの親は、「全校生徒おこづかい調査結果」の平均を参考にして、1か月のおこづかいを決めている。ターくんにとっては、おこづかいの額が決まるとても重要な調査だ。

友だちのリョースケくんとともに、放課後の調査まとめを手伝うことになった。リョースケくんは近所の小学6年。ターくんの1学年上だ。算数の「データの活用」がとても得意で「統計学」と呼んでいる。なんでも統計学はこれまで中学1年の数学で習う内容だったのが小6算数で習うことになったらしい。

ターくんの大発見!?

ターくんはデータのまとめを手伝ううちに、すごいことに気がついた。

靴のサイズの大きい人ほど、おこづかいが高いのだ。念のため、習ったばかりのグラフに描いてみた。「間違いない。大きな靴を履いていると、おこづかいが上がる。大発見だ。リョースケくんには内緒だ」。

ターくんはその日のうちに、お年玉を使い切って、ぶかぶかの靴を買った。翌日、歩きづらいその靴を履いて学校に通った。

「それで、おこづかいは上がったの?」。リョースケくんが笑いながら話してきた。

「それが全然。親は『バカだね、あんたは』とあきれていたよ。何を間違えたのかなあ」とターくん。キミならどう答える?

リョースケくんによる解説

「靴のサイズとおこづかいは、たしかに関係がありそうだ。でも大切なことを見落としている。大きな靴を履く生徒は体が大きい。体が大きい生徒は高学年に多い。学年が高くなると、おこづかいは上がる。だから靴のサイズではなく、学年が高いから、おこづかいが多いが正しい関係だ。残念だけど靴のサイズは関係ないな」。

リョースケくんによると、統計を学ぶことはだまされない人間になるためだという。「『A病院では患者は長生きしない。B病院では10年以上元気でいる。この結果B病院が優れている』といったデータも、A病院はお年寄り専門の病院で、B病院が小児科なら比べる意味がないだろう」

 

 

「新聞を読む子は学力が高い」

リョースケくんは大の新聞好きで知られている。よく親は、新聞を読む子は学力が高いと言っている。ターくんは思い切って「ボクも新聞を読んだら、リョースケくんみたいになれるかな」と聞いた。

新聞を読むから勉強ができるようになったのか、勉強ができるから新聞を読むようになったのかまでは分からないという。「新聞を子どもに読ませてくれる家庭は、教育に力を入れる家庭が多いだろう。塾にも行けて、参考書も買ってもらえる家庭だ。新聞習慣も学力も、教育熱心な家庭ということを表しているのかも知れない」。さすがリョースケくんだ。

統計の裏切り

その翌日の放課後、リョースケくんがめずらしく声を大きくして「これは間違ったやり方です。統計以前の問題です」と先生とやり合っていた。

「全校生徒おこづかい調査結果」のはずが、6年生の分だけごっそり抜いて発表していたという。「そりゃあひどい」とターくんにも理解できた。学年ごとの1か月のおこづかい額の平均は、1年240円、2年300円、3年350円、4年480円、5年600円、6年750円だ。6年のデータを外してしまったら、全校生徒の平均はぐっと下がってしまう。

ターくんは頭グルグル考えた。「全校生徒おこづかい調査結果」は、本当の数字より低くされた。その低い数字を参考に決められたボクのおこづかいの額は、本当にもらえる額より低くなったはずだ。損している。

ターくんの怒りは収まらない。リョースケくんに「学校は、おこづかいを上げたくない親たちとぐるになって、不正な操作を行ったに違いない」と話した。不正な操作という難しい言葉を使ったので少しうれしかった。

 リョースケくんは「だれがなぜそうしたかまでは、今は分からない。しかし、学校は信頼を失い、教科書で学ぶ統計の学問そのものにも傷をつけたのは間違いない。学校新聞で大きく取り上げよう」ときっぱりと言った。

 

ターくんからの質問

①リョースケくんが「統計以前の問題だ」と言った理由は。

②ターくんの損したおこづかいはどうなる

③次のように置き換えて、周りの大人と話し合ってみよう。

「学校→厚生労働省」「全校生徒おこづかい調査結果→毎月勤労統計」「もらえるおこづかい→雇用保険や労災保険」「もっともらえるはずだったターくん→2000万人」

 

ターくんの復習ノート

統計という言葉は、英語で「statistics(スタティスティクス)」という。語源を調べると、ギリシャやローマ時代といった大昔にさかのぼる。政治家たちが国全体の状態を把握するために作り出した。その国家(state)と状態(こちらも英語でstate)から生まれた言葉らしい。国の状態を表すことが「統計」の元々の意味なわけだ。とすると、国の状態を都合良く変えるなんて、「統計」と呼べるのだろうか。

 

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